ブドウ農家は良質なブドウをつくるため、日々努力を惜しみません。
中でも、カビやウイルス、寄生虫などからブドウを守る対策は欠かせない工程とされています。
ブドウは私たちが想像している以上に繊細な果物であり、注意深く管理を続けないと、病害によって畑が全滅してしまうこともあります。
ビオディナミやオーガニック、という名称が使用されているワインが多くありますが、無農薬または減農薬でブドウを育て上げることは大変難しい技術を要するのです。
ここでは、ブドウの病害を一部紹介。
ぜひ、覚えておいてください。
代表的なブドウの病害3つ
ブドウの病害にはさまざまなものがあります。
その中でも代表的な病害をまとめました。
・ベト病
・うどんこ病
・灰色カビ病
それぞれ解説していきます。
ベト病
ベト病は1873年にヨーロッパで発見されたといわれている、カビが原因の病気。
ブドウ葉上に白い斑点が出現し、発病がひどくなると落葉してしまいます。
幼果で発病した場合、肥大が停止して白い菌糸が密生。
6月頃に発生し、8月の盛夏になると進展は停止しますが、9月以降に気温が下がると増加していきます。
一度ベト病が発生すると二次伝染を繰り返してしまうため、初期防除はもちろん、予防を徹底することが重要です。
ちなみに露地栽培は雨よけを使った栽培と比較するとベト病が発生しやすく、より注意が必要といわれています。
対策としては、硫酸銅と生石灰、水を混ぜたボルドー液の散布が効果的です。
うどんこ病
うどんこ病は、北アメリカで発生した後、1850年頃にヨーロッパに伝播したといわれている病気。
その名の通りブドウ葉や茎、果実を白い粉末(うどん粉っぽい)のような白いカビが映えてしまう病気です。
ブドウがうどんこ病に感染すると、果実が分裂したり早期に落ちてしてしまうといわれています。
さらに、一度感染した果実から、二次感染する可能性があるので注意が必要です。
ちなみにうどんこ病の生育がまばらな場合、葉が灰色や紫色に変色することもあります。
予防にはイプロジオン水和剤(ロブラール水和剤)の使用が効果的です。
灰色カビ病
灰色カビ病は、グレーモールド、ブリチュールグリーズなどとも呼ばれる病気。
果実だけではなく、葉や花も灰褐色のカビに覆われます。
灰色カビ病の病原菌はボトリティスシネレアと呼ばれる菌類で、菌糸が果粒表面を保護するロウ質に入り込むことで水分が蒸発。
果実が枯れていき、ワインの原料としては使用することができなくなります。
しかし、一方で諸条件が重なりボトリティスシネレアが良い方向へ。(多湿で気温が20度~25度ほどの環境で発生しやすいとされています)
前述した諸条件によりボトリティスシネレアは貴腐菌と呼ばれ、貴腐ワイン(甘口ワイン)の原料となるブドウとなることもあります。
対策は、風通しを良くする、カリグリーン、ダコニールなどの農薬を使用すると効果的です。
ウイルスによる病害
ブドウの病害というとカビによるものが有名ですが、ウイルスにも冒されやすい…という特徴もあります。
ウイルスによる病害は約20種類ほどあるといわれており、とくに斑点病やリーフロール、コーキーパークなどが有名です。
斑点病は、葉にねじれやシワ、斑点などが発生するウイルス病で植物全体が減退する可能性があります。
リーフロールは、その名の通り葉が丸まってしまう症状ですが、赤色の斑点が現れるのも特徴。
比較的、欧州系の黒ブドウ品種が同ウイルス病の典型的な症状があらわれやすいとされており、発病すると治療が困難であること感染樹となるためすみやかに伐採し、ウイルスフリー苗木を受け付けることがすすめられています。
フィロキセラ
覚えておきたいブドウの病害についてお伝えしてきましたが、“フィロキセラ”と呼ばれるアブラムシの一種がもたらす影響についても学んでおきましょう。
フィロキセラはアブラムシの一種で、植物の根、葉に寄生した後、その植物を枯死させるブドウ樹にとって恐ろしい存在です。
1800年代にアメリカから持ち込まれという説が根強いですが、1800年以前には既に入ってきていたのではないか、という有識者もいるようです。(日本もフィロキセラによる影響を受けたことで知られています。)
対策としては、ヴィティス・リパリアやベルランディエリなどの北米系種を台木とした接木苗を用いるのが有効とされています。
一方、フィロキセラが持ち込まれなかったとされているチリ、フィロキセラが生息できない砂の多き土壌で造られているワインなどは接木無しのブドウから造られるワインとして人気を博しているようです。
さらにフィロキセラの影響を強烈に受けたフランスにも、その被害から逃れ今でもブドウが栽培されているものがあります。(ブドウ農園が国家遺産に認定)
気になる方はチェックしてみましょう。
ブドウ栽培の大変さを知ろう
近年の研究によると、キュウリ、カボチャ、メロンに赤外光を照射することで、うどん粉病を抑制することができたというものがあります。(実用化はされていない)
このようにさまざまな病気を抑制する研究が世界で進められていますが、やはりブドウ栽培は自然相手であり、完全に人間がコントロールできるものではありません。
良質なワインを造るための栄養素を兼ね備えながら、病害からも守り抜く。
ブドウの病害について知ることは、ブドウ農家の努力を知ることにも繋がります。
たまには農家さんの努力にも感謝しながら、ワインを楽しんでみてはいかがでしょうか。
参考
ブドウの病害
http://www.pref.nara.jp/16486.htm
光照射による植物病害の防除法の開発
https://shingi.jst.go.jp/past_abst/abst/p/14/1414/san-in06.pdf