カリフォルニアワインを語る上で忘れてはならないのが、フィロキセラ禍。
ナパ・ヴァレーはもちろん、欧州、日本など世界のブドウ産業に大きな衝撃を与えた事件として今もなお語り継がれています。
さて、そんなフィロキセラ禍に関連しているのが「AXRワイナリー」。
フィロキセラとどのような関係があるのか探っていきましょう。
フィロキセラの猛威
フィロキセラとは、「ブドウネアブラムシ」と呼ばれている害虫のこと。ブドウの根や葉に寄生した幼虫が樹液を吸い、成長した後にブドウを枯死させるワインにブドウ栽培の天敵として知られています。
19世紀後半頃にソノマで発見されたフィロキセラ。
カリフォルニア全土はもちろん、南フランスのワイン商がアメリカ・ニューヨークからぶどうの樹を輸入したことからヨーロッパ全土でも猛威をふるう結果となりました。
さまざまな対策が講じられたもののどれもフィロキセラに抵抗がなく、その間にもフィロキセラは数多くのブドウ園を破壊していきます。
そんな中、アメリカにフィロキセラ問題で派遣されていたフランス・モンペリエ大学のジュール・エミール・プランション博士により、アメリカ原産(ラブルスカ系)の台木はフィロキセラに耐性があることを発見。
ラブルスカ系を台木にした接木苗が開発されたことで、フィロキセラ禍を乗り越えることができたのです。
カリフォルニアの60%を占めたAXR-1
じつはこのフィロキセラと関連しているのが、AXR-1という台木(ルートストック)。
そもそも、AXR-1は60年代から70年代にかけてカリフォルニアで広く用いられた台木であり、一時は全体の60%ものシェアを占めていたといわれています。
当時、このAXR-1はフィロキセラ抵抗性台木とされており、事実フィロキセラが存在してもAXR-1のおかげか激しい被害は発生しなかったそうです。
バイオタイプBへの耐性
ナパ・ヴァレー及びカリフォルニアワインの礎といっても過言ではない台木、AXR-1。
当時のフィロキセラ禍の中においても、このまま大きな被害が発生せずにブドウ栽培を継続できると信じられてきました。
しかし、大きな転機となったのが1983年頃。
フィロキセラによるAXR-1の被害が増加し始めます。
あれだけフィロキセラ耐性を持っていたAXR-1になにが起こったのか…。
さまざまな研究がなされた結果、フィロキセラに新たな系統である「バイオタイプB」が突然変異によって発生していたことがわかったのです。
新たなカリフォルニアワインへ
バイオタイプAに加害しなかったAXR-1ですが、バイオタイプBには抵抗性がなかったAXR-1。
結果、ナパ・ヴァレーに栽植されていたAXR-1の2/3が更新されたとされています。
カリフォルニアワインにとって大きな危機となったバイオタイプBの発生。しかし、長い目でみるとカリフォルニアワインに大変重要な出来事だったといわれています。
じつは、AXR-1が多く利用されたひとつの理由が「適応性の高さ」であり、さまざまなブドウ園で利用できるというメリットがありました。
現在、SCや110R、St.GeorgeなどバイオタイプBに耐性がある抵抗性台木が使用されているのですが、それぞれ土壌や気象条件に対する適応性に制約があります。
結果ナパ・ヴァレーやカリフォルニア全体の土壌や気象条件などが改めて研究されることとなり、それぞれの土地に合った台木や品種が栽植されることになったのです。
つまり、バイオタイプBの発生によりカリフォルニアワインはある意味でテロワールを意識するワイン造りへと進化し、品質が高まったということなのではないでしょうか。
AXR-1へのオマージュ
TYCワインクラブがおすすめするワイナリー、「AXRワイナリー」。
ワイン醸造家ジャン・ホフリガー、とその友人3人によって立ち上げられたワイナリーです。
お気づきのように、「AXRワイナリー」の名はAXR-1が由来。
ナパヴァレーワインの先駆者達へのオマージュとして、「Aramond x Rupetris = AXR」と名付けられているのです。
テロワールを最大限に生かしながら最新の革新的な醸造技術を駆使する「AXRワイナリー」のワイン。スイスのローザンヌ生まれのジャン・ホフリガーは、フランスボルドー、イタリア、南アフリカなど世界各地の著名なワイン産地で経験を積み、究極のワインを造るためナパヴァレーにやってきました。
今では、世界的なワインコンサルタントであるミシェル・ローランが全幅の信頼を寄せる数少ない醸造家の一人です。
彼は、若くても味わい深く楽しむことができ、かつボルドーワインのように長期熟成で絶妙のバランスに育っていくワイン造りを目指しています。
その品質の高さはもちろんですが、最も彼らが大切にしているのは、ナパ・ヴァレーという土地と歴史、そして先人たちの努力です。
ナパ・ヴァレーの過去、現在、そして未来を表現する貴重なワイナリー。
AXR-1の歴史を知ることで、彼らのヴィジョンをより明確に理解できるのではないでしょうか。