一般的にワインの原料となるブドウは、ワイン用ブドウです。
しかし日本の場合は生食用ブドウもワインの原料になるため、他国のワイン産地と比較すると多種多様なワインに出会うことができます。
さて、そもそもワイン用ブドウと生食用ブドウの違いはどこにあるのでしょうか。
基本中の基本ではありますが、互いに求められる品質の違いについて案外知らない方も多いかもしれません。
ここでは、ワイン用ブドウと生食用ブドウの違いについてお伝えしていきましょう。
日本は生食用ブドウがメイン
日本で栽培されているブドウは、ほとんどが生食用ブドウといわれています。
海外のワイン産地のワイン用(加工用)ブドウと生食用ブドウの比率は「9:1」といわれていますが、なんと日本はその逆。
「生食用ブドウ9割 : ワイン用ブドウ1割」といった比率で栽培されています。
日本の生食用ブドウの美味しさは世界でも注目されており、あの種無しブドウの栽培に欠かせない植物ホルモン「ジベレリン」を発見したのも日本人。
高品質な生食用ブドウに賭ける思いは世界トップクラスと言っても過言ではないでしょう。(消費者の求めるレベルも高い)
そこまで生食用ブドウが美味しいのであれば、それでワインを造ってしまえばいいのに…と思う方もいると思うのですが、それは全く別の話。
その理由を解説していきましょう。
ワイン用と生食用に求められる品質
まず、生食用ブドウに求められる品質をみていきましょう。
- 大きくて見栄えが良い(大粒で形が揃っている)
- 甘過ぎないあっさりした味わい
- 酸っぱ過ぎない穏やかな酸度
- 食べた時に良い香りがすること
- 薄い果皮でそのまま食べることが可能
- 種無し
高級デパートに並ぶシャインマスカットや大ぶりの巨峰、ピオーネなどを想像した方も多いのではないでしょうか。
小粒、酸っぱい、種も入っている…という生食用ブドウの需要は残念ですが少ない印象です。
では、一方のワイン用ブドウに求められる品質をみていきます。
- 果皮の割合が多く小粒
- 糖度が高いものが望ましい
- 比較的高めの酸度
- ワインに加工した時に香り高い
- 厚みのある果皮
- 果皮に適度な渋み
- 種子は必須
生食用ブドウと比較すると、求められていることがある意味、真逆。
これで美味しいワインが造られるのか…と思ってしまうかもしれませんが、じつは原料となるブドウはこういったスペックでないと品質の高いワインは造れないのです。
ワイン用ブドウはワインのための原料
ワイン用ブドウは、なぜ前述したような品質が求められるのでしょうか。
まず、ワインの香り成分は果皮付近に多いため(前駆体として)、果汁より果皮の割合の方が重要です。
果肉が多過ぎると果皮由来の複雑な香りが得られないため、平坦なワインになってしまいます。
次に糖度ですが、ワイン用ブドウにおいては生食用ブドウ以上に高い糖度が求められます。(生食用にも甘さが必要ながら、甘過ぎると食べ飽きてしまうことからじつはそこまで重要視されていない)
ブドウに含まれる糖度が発酵によってアルコールに変換されるわけですが、ワインのアルコール度数10から13%にするためには、最低でも20〜23Brix程度は必要。
もちろん、糖度が高過ぎるとワインの品質を損なうため難しいところですが、アルコール度数が低過ぎると微生物汚染の可能性があるなど、糖度はワイン用ブドウにとって重要なファクターなのです。
そして、酸。
ワインに含まれている有機酸の中でリンゴ酸や酒石酸がとくに有名ですが、酸度が下がり過ぎることで微生物汚染の可能性やワイン自体の品質低下(味わいがだれる)、亜硫酸などの添加が増えるなど、ワインにとってデメリットが増えてしまいます。
また、種無しだと糖度が下がるとか、果実の容積が増大する、赤ワインにおけるポリフェノールの溶出など、高品質なワイン造りにとって種子は重要な存在と考えられているようです。
食べるブドウからワインを造っても美味しいと感じられるものはできると思いますが(日本人にとって)、世界的に評価されているワインの味わいを目指すためには、やはりワイン用ブドウの方が優れているということになりそうです。
参考
ワイン製造のための原料ブドウの品質 奥田徹 著 · 2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/64/5/64_278/_pdf
日本における生食用ブドウの栽培動向とその遺伝的背景 佐藤明彦 著 · 2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/64/5/64_273/_pdf/-char/en