ワインは飲むだけでなく、料理酒としても優れた働きをすることで知られています。
もともと料理用に造られているワインではなく、飲みきれなかったワインを料理に使う方も多いことでしょう。
今回は「料理酒としてのワイン」を主題に、ワインを調理に使うメリットなどをお伝えしていきます。
アルコールと調理
ワインに限ったことではありませんが、日本酒や本みりん、ウイスキー、泡盛などを調理に使用するシチュエーションは少なくありません。
これらアルコールを含んでいるお酒を調理に使用する目的は、加熱による望ましくない香りの抑制、または素材の風味を残すことだと考えられます。
なぜそれが叶うのか。
まず、アルコールは水よりも沸点が低く、煮込み料理などに入れると全体の沸点が下がります。
つまり、近年話題の「低温調理」のような状態を生み出すことができるため、素材の風味などが失われずに料理を仕上げることができるのです。
また、加熱を続けることで素材から生の状態とは違うさまざまな香りが発生しますが、中には高温過ぎると望ましくない香りとなってしまうことがあります。
ワインなどアルコール飲料を調理に使うことで素材にアルコールが反応。
結果、望ましくない香りの生成を抑制させることができるわけです。
軟化効果
ワインの調理効果の中でもとくに重要視されているのが肉の軟化効果。
肉の煮込み料理に使われたり、肉を使ったソースなどをつくる際にワインは欠かせない調味料として活躍しています。
なぜワインは肉を柔らかくするのでしょうか。
まず、肉は「水分・タンパク質・資質・そのほか」で構成されています。(部位などにより違いはある)
中でもタンパク質を構成しているものが、筋原繊維タンパク質、筋形質タンパク質、結合組織タンパク質。
これらタンパク質は加熱調理によって肉を硬化する方向に作用し続けるため、肉を加熱すると硬くなり、さらにそれに伴って肉汁が放出されてしまうわけです。
牛肉を長時間沸騰したお湯に放置しておけば、味気ないガチガチの塊になることはどなたでも想像できるでしょう。
さて、ここでワインの出番です。
ワインには有機酸がふくまれていますが、肉をマリネすることでpH値が低下するため保水性が向上します。
また、pH低下により筋原繊維タンパク質が分解促進されるため、肉が収縮することを防ぐことが期待されます。
そして赤ワインに多く含まれているタンニンとミオシン、アクチンという成分が肉の表面に複合体を形成するため肉汁の放出も防げるわけです。(コラーゲンの可溶化なども促進されるため、硬化抑制)
ただし、加熱する場合はミオシン、アクチンは変成するためタンニンと複合体を形成できなくなります。(低温調理などでは別か)
赤ワインだけでなく、肉を柔らかくするためには白ワインの方が良い(低pHであるためか?)という意見もあるようですが、とにかくワインは肉を柔らかくするにはもってこいの料理酒であることは間違いないのです。
消臭効果など
ワインを料理酒として利用するメリットとして、あとひとつ消臭効果があります。
そもそもアルコール(エタノール)に生臭みを抑える効果がありますが、ワインの場合はタンニンや有機酸、ジエチルスルフィド(硫黄系の有機化合物のひとつ)が多く含まれているため、さらに高い効果を発揮すると考えられているようです。
例えば、魚の生臭み(トリメチルアミンなど)はワインを漬込むこと(かける)などで抑制可能といわれています。
また、資質の酸化で生成される「n-ヘキサナール(青臭さ)」などもタンニンで抑制が可能。
ワインを使うことで素材の臭みを消し去り、美味しい風味を残せると考えられるのです。
また、白ワインなどはpH値が低く有機酸も豊富に含んでいることから(リンゴ酸や酒石酸)、高い殺菌効果も期待されています。
実際に生ガキに白ワインをかけておくだけで、多くの雑菌(人間の体に害はない)が殺菌できるという研究もありました。
他国の料理にワインを使用するものが多いですが、日本のように新鮮な魚などが手に入りにくかった…という歴史にも影響されているのかもしれませんね。
ワインを料理酒にして贅沢なペアリングを試してみよう
料理酒としてのワインについてお伝えしました。
ちなみにワインと料理のペアリングを考える際、もっとも手軽なのは「調理用に使用したワインを、できあがった料理と合わせる」という方法だそうです。
少し贅沢かもしれませんが、飲んでも美味しいワインでワイン煮込みやマリネを作り、それにそのワインを合わせるというチャレンジも試してみる価値はあるでしょう。
これを機会に飲むだけではなく、料理に使うという側面からもワインについて考えてみてはいかがでしょうか。
参考
ワインの秘密 清水健一著